シンガポール、「デジタル銀行」推進で東南アジアでの金融ハブ化に先手
16日、シンガポールでのインターネット専業の「デジタル銀行」推進を、日本経済新聞が報じた。
IT(情報技術)やデータ分析を駆使した高度な金融サービスの開発を促し、デジタル時代の金融ハブとしての競争力を高める。フィリピンやマレーシアでもデジタル銀の認可の準備をしており、近い将来スマートフォンを使った低コストの金融サービスが東南アジア域内に広がりそうだ。
シンガポール金融通貨庁、配車アプリ大手グラブなどデジタル銀行営業免許付与
シンガポールの金融通貨庁は4日、デジタル銀行の営業免許を付与すると発表した。
申請した21陣営のうち、認可が下りたのは4陣営。選ばれたのは、アジアを代表する有力なスタートアップが中心だ。個人・法人向けサービスは、東南アジアの配車アプリ大手グラブとシンガポール・テレコム連合、オンラインゲームやEコマースを運営するシーの2陣営に、法人取引のみは「アリペイ」を運営するアント・グループら中国系2陣営に決まった。
各社とも2022年初めにも営業を始める。グラブは配車で獲得した膨大な顧客にスマホで完結する預金や資産運用の手段を提供し、これらの個人ユーザーをデジタル銀行に誘導するとみられる。直接預金を集められれば顧客層が広がり、扱う資金量もケタ違いに大きくなる。
グラブやシーは宅配やEコマース事業で多くの中小零細企業と取引がある。販売データを分析して小口融資の利率を設定するなど顧客ごとのきめ細かい融資サービスも想定される。
グラブとシーはすでにスマホ決済は展開しているが、銀行免許の取得で金融サービスの幅を広げられる格好だ。
東南アジア、デジタル金融サービス拡大への「課題」と「期待」
スマホの金融サービスで先行する中国勢も、シンガポールを東南アジア攻略の足がかりにする算段だ。
アントなどは人工知能(AI)を活用した小口融資の実績があるが、自国市場では競争激化の懸念がある。中国企業への制裁を強める米国やインドはハードルが高いだけに、東南アジアは格好の進出先になる。
域内ではマレーシアとフィリピンの中央銀行がデジタル銀の参入を認める方針を打ち出している。金融調査会社カプロナジアのディレクター、ゼノン・カプロン氏はシンガポールでのデジタル銀の免許取得は「ビジネスモデルの強みの証明になり、他国での免許申請プロセスが容易になるだろう」と話す。
フィリピンで銀行口座を持たない成人の割合が7割近くに上るなど(17年時点)、既存の金融サービスが行き届いていない新興国が多い。こうした人々にとって、低コストの金融サービスが提供される意義は大きい。
グーグルなどが11月に発行したリポートは、東南アジアではオンライン融資と投資が25年までの5年間にそれぞれ約4倍に増えると予測した。デジタル銀を軸にした新興勢の台頭は、高コスト構造が残る既存勢力の脅威となる。
シンガポールのDBSグループ・ホールディングスは12月、主要な暗号資産(仮想通貨)と通貨を交換できるデジタル取引所の開設を発表し、フィンテック分野で攻勢をかける姿勢を鮮明にした。シンガポール国立大学のドゥアン・ジンチュアン教授は、シンガポールが「銀行過剰」になると指摘。
顧客は恩恵を受けるが、長期的に銀行の統合や撤退につながるだろう」と指摘している。